山形大学人文社会科学部附属研究所

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資料室ブログ

このブログは、高校生・大学生、一般の方に、外交官・常設国際司法裁判所裁判官として活躍した安達峰一郎の「国際法にもとづく平和と正義」の精神を広く知って頂くために設けました。安達峰一郎に関するイベント等の情報、安達峰一郎の人となりや業績等に関わる資料紹介、コラムやエッセイ、今日の国際関係に関わる記事等を随時配信していきます。

駐メキシコ公使時代の安達峰一郎―安達峰一郎とウッドロー・ウィルソン―(4) 安達のミッション

投稿日:2018年10月9日 投稿者:山形大学人文社会科学部教授 北川忠明

 安達がメキシコに着任したのは1913年7月22日のことです。同日付けで牧野伸顕外務大臣に着任報告をしていますが、その中でマンサニョ港から鉄道で移動する過程で、諸都市の駅に停車するたびに「日本万歳」の大歓迎を受けたことを伝えています。が、そこは慧眼の安達、この歓迎ぶりがウエルタ政府の手によるものでもあると見抜いており、ある都市では、日本万歳の声とともに「米国人死せよ」の声もあって、反米感情の高まりがあることを伝えています。そして、安達は「民衆の反米感情に迎合せざることに努め日本メキシコ両国間の親善は専ら商工業の関係を発達せしむる」にあると繰り返し述べておいたとしています。
 安達が大歓迎を受けた背景には、アメリカとメキシコのウエルタ政府との関係が悪化する中で反米親日感情の高まりがあったわけですが、日本・メキシコの友好関係があったことも見逃せません。安達のミッションに関わるので、簡潔に見ておきましょう。
 日本とメキシコが通商条約を結んだのは1888年のことです。それまで欧米列強と結んだ通商条約は、日本の関税自主権のない、治外法権を認めた不平等条約でしたが、日墨(メキシコは漢字で墨国と書きます)修好通商条約は、本格的なものとしては初めての平等条約でした。日本が、1889年に大日本帝国憲法を発布し、翌年国会開設を果たして近代国家の体裁を作り上げる時期です。日墨修好通商条約締結を行ったのは、不平等条約改正に辣腕を揮った睦奥宗光でした。睦奥宗光は1888年に駐米公使になったのですが、初代の駐メキシコ公使を兼任して、条約締結を行ったのです。日本がこの平等条約をいかに待望していたかは、在日本メキシコ公使館が他国の公使館と異なり永田町に建設されたことにも窺われます。
 メキシコの方は、先に見たように、ディアス独裁体制の時代で、近代化改革を推進し、外国との通商も積極的に拡大していた時代です。メキシコは労働力不足で移民を必要としていたし、日本も移民送り出しを進めていた時代です。このメキシコ移民を推進したのは、榎本武揚です。榎本武揚は、旧幕府軍を率いて戊辰戦争を闘い、函館に蝦夷共和国を開いた人として有名です。明治になってからは、大臣職を歴任し、殖産興業にも貢献しました。榎本は、1893年に外務大臣を辞任後、「植民協会」を設立し、1897年にメキシコに向け植民団を派遣します。ラテン・アメリカへの日本人移民はメキシコから始まったのです。ですから、移民の送り出しと受入を通じて日本・メキシコの友好関係の基盤が形成されていたと見てよいでしょう。
 この頃はメキシコ(ほかにカナダ、ハワイ)を経由して日本人移民がアメリカに流入することも多かったのですが、アメリカでは移民排斥の動きが昂じて、1907年の「日米紳士協約」によってアメリカへの移民が制限されました。ですから、メキシコへの移民は1908年以後激減し、ペルー、ブラジルへの移民が多くなります。しかし、その後もアメリカでは移民排斥の動きは強く、1913年に「帰化不能外国人」の土地所有を禁じたカリフォルニア州法が制定され、日米関係が悪化していました。
 ところで、メキシコは鉱物資源の豊富な国です。ディアズ独裁体制時代の1880年代から、アメリカ、フランス、イギリスの外国資本が鉱山開発に乗り出し、工業化を進めていました。ドイツは遅れて参入します。日本は日露戦争の勝利によって列強の仲間入りを果たしたばかりで、メキシコにはほとんど利権を持っていなかった時代です。先に述べたような事情でメキシコへの移民送り出しの時代は終わり、安達が述べていたように、「日本メキシコ両国間の親善は専ら商工業の関係を発達」させることが課題でした。
 駐メキシコ公使としての安達が「利権拡張を重視していた」ために、日本の影響力拡大は列強から注目されていたとメキシコ史関係の本には書かれていますが、それは、安達のミッションが日本・メキシコの通商関係拡大にあったからです。

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