山形大学人文社会科学部附属研究所

山形大学人文社会科学部附属研究所

ホーム > 人文社会科学部附属研究所 > やまがた地域社会研究所:安達峰一郎研究資料室 > 資料室ブログ > 安達峰一郎と石井菊次郎-3

資料室ブログ

このブログは、高校生・大学生、一般の方に、外交官・常設国際司法裁判所裁判官として活躍した安達峰一郎の「国際法にもとづく平和と正義」の精神を広く知って頂くために設けました。安達峰一郎に関するイベント等の情報、安達峰一郎の人となりや業績等に関わる資料紹介、コラムやエッセイ、今日の国際関係に関わる記事等を随時配信していきます。

安達峰一郎と石井菊次郎-3

投稿日:2019年10月25日 投稿者:山形大学名誉教授 北川 忠明

 石井と安達は国際連盟外交を支えた国際協調派最強コンビと言っても過言ではないように思われるのですが、二人が書き残したもの、または講演記録等を突き合わせてみると微妙に違うなと感じるところがあります。これから3回にわたって、この点に触れて行こうと思います。
 一つは国際民主主義への対応です。国際連盟は、19世紀のウィーン会議以来の会議外交を引き継いで四大国を中心とした理事会と、ドイツ帝国等の解体から生まれた独立国家もメンバーとなる総会によって構成されます。問題になるのは、理事会も総会も規約上は「世界平和に影響する一切の事項」を処理する権限に違いがないことで、両者の関係をどう考えるかということです。
 石井は、『外交余禄』(1930年)の中で、理事会と総会は「相互的に独立なる而して全然同等なる権能を有する二個の会議体」であり、「総会は国際平和の樹立を分担し其努力は将来に係り建設的である、随って宣伝に由りて世界の輿論を培養し教育することも其任務の一部とする所である。理事会も亦……、現に起りたる国際紛争を平和的妥協的に解決するを以て当面の任務とするのである」と述べています。対等だが、機能において異なると言うのです。
 安達は、1930年に帰国の際行った講演「国際連盟の現状と常設国際裁判所判事の来秋総選挙」の中で、「総会は空気を養成する所であり、理事会に対して希望を表明する機関であります。……この会議には、各国の最も責任ある全権、即ち首相、外相、若しくは蔵相が列席して、種々討論して、理事会その他の団体に指導的な訓辞を与えます」 と特徴的な表現をしています。石井と大差ないように見えるかも知れませんが、理事会に対する総会の意見や希望を尊重する必要があるというニュアンスが強く出ていないでしょうか。
 石井も安達も世代的にはそれほど違いませんし、日本が一等国になることを目ざしてきたことにも違いはないと思いますが、大国としての日本の地位の向上を優先する石井に対して、安達はより小国に対してシンパシーを持っていたように思います。
 安達は外交官になった当初任地イタリアに航海した時に植民地に対する欧州諸国の横暴を記していますし、駐メキシコ公使時代にもメキシコに対する米国の横暴を目の当たりにしています。また10年に及ぶ駐ベルギー公使・大使経験もあって、小国に対する同情心を捨てることはなかったように思えます。
 石井と安達の微妙な差異は、コルフ島事件(1923年8月 27日ギリシア=アルバニア国境画定委員会で活動していたイタリアのエンリコ・テリーニ将軍とそのスタッフがギリシア領で殺され,これにイタリアが報復して、コルフ島を砲撃・占拠した事件)を巡っても、見られるように思います。
 この時、石井は連盟理事会議長の任にあって、連盟へのギリシャの提訴への対応に苦慮していました。常任理事国イタリアが小国ギリシャに対して起こした武力紛争だからです。イタリアは理事会審査を拒否します。石井は、イタリアの行動は弁護の余地なきものと考えたものの、同様のことが将来中国で起こるかもしれない(実際に満州事変で起こりました)と考えてイタリア批判を控え、扱いをベルサイユ条約実施を担当する「大使会議」に委ねたのですが、小国が多数の連盟総会ではイタリアへの非難轟々です。
 ですから、紛争の決着後、検証のための「法律家委員会」が設置され(1923年12月)、安達が委員長になりますが、手続き的には連盟規約第12条、第15条に抵触する可能性があると考えていたようで、ギリシャ側に有利な判断をしていたようです。安達が「常に小國代表の指導者となり、大國代表を向ふに廻して常に自由・公平・正義の見地より、日本帝國を背景として奮闘」(川島信太郎「恩師故安達博士を偲ぶ」、『外交時報』第七三卷第七二七号、1935年)したとする見方もありますが、石井とは違った面があると感じます。「大国面(づら)をしない大国の外交」(栗山尚一『戦後日本外交』(岩波現代選書)中の表現)というところでしょうか。

月別アーカイブ

年別アーカイブ

ページトップへ

ページトップへ

サイトマップを閉じる ▲