山形大学人文社会科学部附属研究所

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資料室ブログ

このブログは、高校生・大学生、一般の方に、外交官・常設国際司法裁判所裁判官として活躍した安達峰一郎の「国際法にもとづく平和と正義」の精神を広く知って頂くために設けました。安達峰一郎に関するイベント等の情報、安達峰一郎の人となりや業績等に関わる資料紹介、コラムやエッセイ、今日の国際関係に関わる記事等を随時配信していきます。

日本文化・芸術を紹介した安達峰一郎(その1)

投稿日:2019年12月2日 投稿者:東北大学高度教養教育・学生支援機構准教授 深井 陽介

 皆さんこんにちは。東北大学高度教養教育・学生支援機構准教授の深井陽介と申します。この度、山形大学名誉教授の北川忠明先生、新潟県立大学教授の黒田俊郎先生と共に、駐仏大使時代の安達峰一郎のフランス語の書簡、「紅ファイル」の2617通を読み、その中から重要なものをピックアップして翻訳させていただきました。私の専門はフランス文学・フランス語教育学で、主に文化的側面から安達峰一郎が残した功績について、調査・研究しています。
 外交官としての安達峰一郎、国際連盟で功績を残した安達峰一郎の陰で、日本文化普及に尽力した彼の姿があります。1858年の日仏修好通商条約の締結後、フランスではジャポニズムが流行し、浮世絵などがフランスで知られ、人気を博する一方で、ピエール・ロチの『お菊さん』などが発表され、日本や日本人のイメージはまだまだ魅惑のヴェールに包まれていました。その後、大日本帝国は日清戦争、日露戦争に勝利し、台湾や韓国を併合する中で国際的な知名度を上げていきましたが、当時のヨーロッパではまだアジアの小国に過ぎなかったのかもしれません。駐仏大使に就任した1928年、安達は日本文化の普及と日本のイメージの向上の為に、様々な文化的事業に取り組み始めました。
 文化や歴史、伝統を重んじるヨーロッパの風土の中で、日本の威信を高め「一等国」の仲間入りを果たす為に安達峰一郎が考えたのは、まず日本の文化が持つ価値を高めることでした。文化を世界に知らしめ、その価値を認めさせることが、政治や外交、軍事力のみではなし得ない、本当の意味での日本の地位の向上に繋がると考えていたようです。事実、元駐日フランス大使で、有名な作家でもあるポール・クローデルともやりとりがあり(「紅ファイル」2-174など)、ヨーロッパに日本文化を紹介した功績を褒めたたえています。
 既に安達は、ベルギー大使時代に日本文化の普及・発展に貢献していました。第一次世界大戦中戦場と化し、未曽有の惨劇に見舞われたベルギーで、ルーヴァン大学の図書館が破壊されてしまいました。その折、多くの日本の図書を寄贈し、後に「バロン薩摩」と呼ばれた薩摩治郎八と共に日本文化講座である「薩摩講座」を開講しました。それが現在にも受け継がれている日本学の礎になっています。安達は外交を通して政治的に国と国が繋がるだけでなく、精神的な絆を作ることが大切だと言っています。
 駐仏大使になってから、安達が関わった最大のプロジェクトの1つにパリ国際大学都市日本館の建設が挙げられるでしょう。フランス政府が各国に提唱し、留学生の宿泊研修施設を建てるよう要請しましたが、日本の外務省は資金不足で断念せざるを得ませんでした。その時、富豪であった前述の薩摩治郎八が巨万の富を投じて全額出資し、1929年5月に「日本館」が完成しました。当時治郎八は20代後半の若者、安達は60歳に近いのですが、何度も手紙を送り、その度に礼を述べ、親交を深めています。
 安達は駐仏大使に着任してからも、ベルギー時代のように芸術家たちと交流し、彼らに支援することを惜しみませんでした。例えば、1910年代後半に知名度が高まり、1920年ごろから野心的作品を次々と発表していった藤田嗣治の絵は、自ら直接購入し、絵を買ってくれそうな貴族・富豪を紹介しました(紅ファイル4-288)。現在のパリ国際大学都市日本館にも藤田の絵が飾られており、それを見に訪れる人たちがいます。駐仏大使時代の書簡を読んでみると、長谷川春子、川村清雄などの日本人画家とも交流していたことが分かります。また、日本の現代芸術に注目するヨーロッパの貴族やジャーナリストに感謝の手紙も送っています。
 様々な芸術分野の中で、安達自身が深い関心を抱いていたのが絵画です。安達夫人によれば、夫妻は平生対話が少なかったようですが、画廊に入った時は言葉を交わし合ったそうです。実際、夫妻はしばしば好みの美術品を探し求め、購入していました。

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