山形大学人文社会科学部附属研究所

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資料室ブログ

このブログは、高校生・大学生、一般の方に、外交官・常設国際司法裁判所裁判官として活躍した安達峰一郎の「国際法にもとづく平和と正義」の精神を広く知って頂くために設けました。安達峰一郎に関するイベント等の情報、安達峰一郎の人となりや業績等に関わる資料紹介、コラムやエッセイ、今日の国際関係に関わる記事等を随時配信していきます。

安達峰一郎と芦田均〜国際主義の系譜〜戦争違法化と集団安全保障の夢(その2)

投稿日:2020年3月19日 投稿者:山形大学名誉教授 北川 忠明

 戦後再建に貢献した三人の外交官出身の首相のうち、幣原は対米協調外交、吉田は対英協調派で有名ですが、外交官時代の芦田は、外務省の中では「フランス派」とは言えなくともそれに近い位置にあり(内政史研究会『鈴木九萬氏談話速記録』、1974年)、また安達、佐藤尚武、杉村陽太郎といった国際連盟派に近い(矢嶋光『芦田均と日本外交』、吉川弘文館、2019年)位置にいたようです。
 ちなみに、第一回国際連盟総会が1920年に開かれた後、連盟外交を実務的に支える帝国事務局をどこに置くか(ジュネーブか別の都市か)で議論がありました。在仏大使館勤務になった佐藤が、連盟の仕事は在ロンドン大使ではなく在仏大使(石井です)が担当することが至当であり、事務局も駐仏大使と密に連絡し、パリ大使館を通じた情報入手をする必要もあると主張して、事務局をパリに置くようになったとのことです(佐藤尚武『回顧八十年』、196-197頁)。佐藤も杉村も在仏大使館勤務を経験して帝国事務局や国際連盟事務局で活躍し、日本の連盟脱退後は駐仏大使を務めますから、国際連盟派と在仏大使館の間には情報交換と人のネットワークが形成されていたように見えます。このネットワークを意識して、安達と芦田との「つながり」を見ておきたいと思います。
 芦田均は、1912年外務省に入省後、1914年ロシアに勤務、ロシア革命勃発後、1918年に在仏大使館勤務となり、パリ講和会議には安達と同様日本全権随員として参加します。また、1920年9月に石井菊次郎が駐仏大使として着任後は、石井の下で、国際連盟総会等様ざまな国際会議に出席しています。その後、1923年2月に本省勤務となり、1925年9月に在トルコ大使館に一等書記官として赴任し、1930年7月には駐ベルギー大使館に参事官として勤務します。なお、この時期にまとめた研究は東京帝国大学から法学博士を授与され、1930年『君府(コンスタンチノープル)海峡通航制度史論』として出版されています。多数の著作がある知性派外交官です。
 芦田が安達に宛てた書簡が5通残っていますが、それは上記の時期のものです。短い挨拶状やお礼状ですからここで紹介はしませんが、親しみのこもったものです。
 さて、芦田がベルギーに赴任した後、国際連盟帝国事務局長として石井や安達を支えた佐藤尚武が駐ベルギー大使に就任します。佐藤は国際連盟総会代表も務め、1931年9月満州事変の勃発後は、安達の後任の駐仏大使・芳澤謙吉(故・緒方貞子氏の祖父です)や国際連盟事務局次長の杉村とともに、国際連盟での対応に追われます。芦田も駐ベルギー代理大使として佐藤を支えるべく奮闘します。しかし、日本政府も外務省も関東軍や軍部を抑制できず、日本と国際連盟との対立が拡大します。この状況で、芦田は、1932年2月の衆議院議員総選挙に立憲政友会から出馬すべく外務省を退職し、当選後は「反軍主義」の政治的リベラリストの雄として帝国議会内外で軍部批判・日本政府批判を繰り広げます。しかし事態は、満州国の樹立と日本政府による承認、リットン調査団の報告、臨時国際連盟総会における勧告決議へと進みます。芦田は日本政府の対応を批判しつつ、連盟脱退阻止の立場から論陣を張りますが、1933年3月政府は脱退通告をします。
 日本の連盟脱退後、芦田は代議士としてまた『ジャパンタイムズ』社長として多彩な言論活動を行うとともに、国際連盟を支える国際団体であった日本国際連盟協会(連盟脱退後は日本国際協会と改称)の会員として活動を続け、1934年7月に結成された「日仏同志会」へも参加します。
 この「日仏同志会」が、安達が作るべく努力していた「日仏議員同盟会議」(もしくは「日仏議員親善会」)を受け継ぐもののようです。後者には貴族院議員の中でもリベラルな国際協調派が多く含まれているのですが、駐仏大使としての安達がやろうとしていたことがどうなったかという点も気になるので、次回は、戦後改革に一気に進まずに、迂回路をとってこの「日仏同志会」に触れておきましょう。

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