2022年度国際学術講演会「地域は移民と国民の分断に向かうのか?」が、3月4日(土)、山形大学人文社会科学部(小白川キャンパス、山形市)で行われました。
2023年3月14日
講演会では、イギリスと日本(特に北海道)における外国人労働者の受け入れや地域住民との共生をめぐる現状と課題について、専門分野の視点から現地調査を踏まえた報告が行われました。日野原由未氏(岩手県立大学)は、移民と国民の分断が深刻化し、EU離脱を契機に移民の受入れを制限するに至ったイギリスでは、「技能」の有無・高低に基づく能力主義的選別が「技能の高い国民・移民」と「技能の低い国民・移民」の分断が生じていることを指摘しました。池 炫周 直美氏(北海道大学)は、日本における日系ブラジル人の多く居住する自治体への調査結果などを踏まえて、移民と国民の共生には国、行政、市民一人ひとりの努力が必要であり、それは長い時間をかけて実現されることを論じました。湯山英子氏・設楽澄子氏(北海学園大学)は、北海道における外国人労働者の受入れ地域・職種、支援の取り組みについて報告し、北海道では外国人労働者は着実に地域の一員となりつつあること、また、交流活動や自治体による支援を通じて外国人労働者と地域住民との共生が構築されつつあることを示しました。
次いで行われた討論では、報告に対する討論者のコメントと報告者のリプライが行われました。下條尚志氏(神戸大学)はステレオタイプ化された外国人理解を前提に共生を実施することの危うさを中心にコメントしました。源島穣氏(山形大学)は共生の促進あるいは分断を助長する要因としての福祉国家の特徴を中心にコメントしました。これらのコメントを踏まえて、報告者からは受け入れる外国人を一括りにせずミクロな視点から理解を深めていくこと、福祉国家は能力主義的選別を看過していることなどが述べられました。
それぞれの報告は、分断を深刻化させないための「教訓」(日野原報告)、共生を実施するための国、行政、市民の心がけるべき「姿勢」(池報告)、共生を実現するための「実例」(湯山・設楽報告)として、山形ならびに日本の地域における共生の実質化を考えるうえで大変有意義な報告でした。参加者からも参考になった旨の感想が多く寄せられました。